埋立師とお姫様の物語

先日、知人から男に騙されたという女の子の話を聞いた。
女の子は20代前半で職業上この年代にしては人並みに生活出来て、プラス毎月車検があっても困らないくらいの収入を得ている。
しかし、人の寂しさだとかは往々にして経済状況とは無関係なもので、その女の子曰く「ひとりが寂しい」という生活を送っていた。
そんな中、その女の子はインターネット上で一人の男と知り合い、携帯電話で連絡を取り始める。
連絡を取る回数も徐々に頻繁になっていき、今度2人で会おう、という話になる。
寂しさからか、言葉の巧みさからかはわからないが、その男に次第に心を寄せていったのは事実だ。
そうして2人でドライブに出かけ、その日のうちにホテルへ。
そして、男に「お金を貸して欲しい」と頼まれ、その子は10万円という大金を貸してしまう。
ここまでトントン拍子に事が進むと作り話みたいにも思えるが、事実だ。
貸すべきか、断るべきか、かなり迷ったらしいが、結局自分で判断する材料と想像力に乏しく、その男に促されるまま身を委ねてしまったのだ。
おそらく自分の寂しさを紛らわしてくれた感謝とそんな男への淡い期待も含まれていたように思える。
当然の如くと言うべきか、約束の期日になってもお金は返って来ていない。
要約すると、男は寂しい女の子を見つけ、言葉巧みに誘い、デートをして、お金を得た、ということになる。
非道な男を非難したいし、無知な女の子を可哀想だとも思う。
が、あえてこの件について視点を変えて深く考えてみた。
もし、「女を騙す」という職業がこの世に存在したなら(こうゆう件があるということは存在するのか?)、この男は大した才能だ。
女の子の心の隙間を埋める「仕事」に対して、十分な「給料」を得たと言えよう。
仮にここではこの職業を「埋立師」とでも名付けておこう。便宜上名前があった方がいい。
その女の子はこの話をしている時、泣いていたらしいが、泣く理由がいまいちよくわからない。
歯が痛くなって、歯医者に行って治してもらって、治療費を払う。至極自然な行為だ。
まだ歯が治ってないことに対して泣いているのか、それとも本当にお金が返ってくると思っているのか。
本気で返してもらうつもりで貸したとすれば、その女の子はとても無知で城の外のことなど何も知らないお姫様だ。
その日初めて会った人の言葉を信じなさい、とでも教育されてきたのか。
その男がどうゆうつもりで自分に近付いて来ているのか、想像もつかないのだろう。
お姫様が増えれば増えるほど、埋立師は潤う。お姫様一人当たりから得る給料は限られているわけだから、お姫様が減ると厳しい。
まあ、ともかく埋立師というのは立派な職業だ。
他人の心の隙間を埋めるという特殊なスキルが問われ、人の役にも立っている。
よくサービスを受けたお姫様が泣いている場面が見受けられるがあれはどうかと思う。
心の隙間を埋めるその対価として代金を支払ったのだから、お金を返せと言うのは歯医者に行って治療費を返せと言ってるようなものだ。
信じたんだろう。目の前に現れたその男が狭い城から手を引いて広い世界のどこかへ連れて行ってくれる白馬に乗った王子様だと(本当に王子様だったら白馬の燃料代を貸してくれだなんて仰らないけれども)。
そんな夢物語にお金を払ったんだから、高く付くのは当然だ。
だから出来れば被害者みたいな顔をして欲しくない。
強いて言えば被害者ではなくお客様だ。そして、お姫様だ。